研究内容

研究概要

持続可能な低炭素社会の構築へ食料やバイオマス資源の生産や利用については,物質循環や地球環境との調和を図りつつ行うことが求められており, それらを踏まえた循環農業システムの確立が不可欠であります。循環農業システム工学研究室では,農業生産を核として,食料を含めバイオマス資源の循環的生産と利用を念頭に置いた「省力的な生産・利用システム」,「低エネルギで効率的な生産技術」の創出を目指し,物質循環が成立する持続可能な低炭素社会の構築に資する研究および社会貢献を行っていきます。

研究課題一覧

炭化技術を軸とした廃棄物系バイオマスの統合的管理技術の開発

家畜排せつ物や食品残さなどの廃棄物系バイオマスは,国内で毎年1億トンを超える膨大な量が生み出されています。廃棄物系バイオマスは温室効果ガスや悪臭,そして富栄養化などの発生源となりうるため,適切な管理が必要となります。しかしその一方で,含水率が80%を超えることもあり,取り扱いが難しく,それらの再資源化やエネルギー化は簡単なことではありません。

この研究では廃棄物系バイオマスを省エネルギーな方法で炭化し,バイオマス由来の炭(バイオ炭)へと変換することで,バイオ固形燃料や土壌改良剤として利活用することを目指しています。

1.省エネルギーな炭化技術の開発

炭化はバイオマスを350℃以上で熱分解し,炭素含有率の高いバイオ炭へと変換する技術です。しかし,熱分解やその前に行われる乾燥プロセスでは多くの化石燃料が使用されることになります。したがって家畜排せつ物のような高水分材料に対しては炭化はもとより,乾燥すら積極的に行われていないのが現状です。こうした状況を変えるため,本研究室では,有酸素雰囲気のもと,従来の炭化よりもはるかに低い温度域(90℃)でバイオマスの炭化を行うことを目指しました。その結果,低温でもバイオマスは炭化プロセスと似た分解が進むことを確認し,最終的には泥炭(石炭類の一種)と似た物質にまで品質を向上させることに成功しました(Itoh et al., PLoS ONE, 2018)。

原料乳牛ふん(左)と90℃で作成した牛ふん由来のバイオ炭(中央)。右は無酸素雰囲気下で90℃で加熱した乳牛ふん。(Source: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0196249.g002)

また,廃棄物系バイオマスの自己昇温反応を利用した炭化技術の開発(自己発熱型炭化法)も目指しています(Itoh et al., Waste Management, 2019)。現在はバイオマスの自己昇温が起きる反応条件や,作成されるバイオ炭の理化学的性質を調べている段階です(Itoh et al., Plos ONE, 2020)。この方式では炭化に必要な熱源を原料内部から抽出して行うため,化石燃料を使用せずともバイオ炭の製造を行えると考えられます。このように自己発熱型炭化法は,従来の炭化の概念を大きく変える画期的な技術であると期待し,研究を進めています。

<関連論文>
Itoh, T., Iwabuchi, K., Ota, K., A new approach to stabilize waste biomass for valorization using an oxidative process at 90 °C, PLoS ONE, 13(4), e0196249, 2018. DOI: 10.1371/journal.pone.0196249

Itoh, T., Iwabuchi, K., Maemoku, N., Sasaki, I., Taniguro, K., A new torrefaction system employing spontaneous self-heating of livestock manure under elevated pressure, Waste Management, 85, 66–72, 2019. DOI: 10.1016/j.wasman.2018.12.018

Itoh, T., Iwabuchi, K., Maemoku, N., Chen, S., Taniguro., K.
Role of ambient pressure in self-heating torrefaction of dairy cattle manure
PLoS ONE, 15, e0233027, 2020.
DOI: 10.1371/journal.pone.0233027

2.バイオ炭を用いた環境保全型作物生産システムの確立

作物生産の現場である農地には収量増加を期待し,長年の間,化学肥料が投入され続けています。その一方で,化学肥料製造過程に必要な化石燃料の使用や,過剰量の施肥による環境影響が懸念されており,これまでのエネルギー投入型の作物生産から環境保全型の農業に切り替える必要があります。

この実現には堆肥などの有機肥料を基本とした作物生産システムを構築することが必要不可欠です。有機肥料は人類が古くから利用してきた,良質な肥料ではありますが,化学肥料と比較すると肥効性が低いなどの問題を抱えます。そこで,本研究室では堆肥とバイオ炭を混同施用することで,化学肥料に頼らずとも必要十分量の作物生産ができることを目指し,研究を進めています。

<関連論文>
Ochiai, S., Iwabuchi, K., Itoh, T., Watanabe, T., Osaki, M., Taniguro, K., Effects of Different Feedstock Type and Carbonization Temperature of Biochar on Oat Growth and Nitrogen Uptake in Coapplication with Compost, Journal of Soil Science and Plant Nutrition, 2020
DOI: 10.1007/s42729-020-00359-y

3.よりクリーンなバイオ固形燃料製造および燃焼技術の開発

バイオマスを直接燃焼して熱エネルギーを獲得する方法は人類が古くから利用してきた技術であり,最も基本的なバイオエネルギー利用方法です。一方で,低品質なバイオマスを燃焼効率の低いストーブで燃焼させると,PM2.5などに代表される大気汚染物質が発生し,これに関連した年間死者数が420万人に達した(2015年)とされています。このような状況を改善するため,本研究では燃焼時のPM2.5排出リスクの低いバイオ固形燃料の製造や燃焼技術の開発を目指しています。

<関連論文>
Itoh, T., Fujiwara, N., Iwabuchi, K., Narita, T., Mendbayar, D., Kamide, M., Niwa, S., Matsumi, Y., Effects of pyrolysis temperature and feedstock type on particulate matter emission characteristics during biochar combustion, Fuel Processing Technology, 204, 106408, 2020. DOI: 10.1016/j.fuproc.2020.106408

廃棄物系バイオマスの堆肥化による有機肥料製造と生物脱臭

堆肥化は原料となる廃棄物の多様性が大きく,また特定の微生物のみを利用する反応系とは異なる開放系の反応ですので,環境温度なども含めて外界の影響を受け易いプロセスです。一方では外界である環境中に常在する微生物をそのまま利用できることが堆肥化の長所でもあり,バイオマスの物理性や常在微生物の反応特性を分析し,堆肥化反応を促進させる方法の考案を目的にしています。また堆肥化に付随して生じる悪臭対策として,アンモニアを吸着する微生物脱臭のメカニズムを解明し,低コストかつ低エネルギーな堆肥化システムの構築も行っています。

マイクロスケール機械工学を活用した「バイオガス」と「メタン発酵消化液」の移動現象の解析とその応用に関する研究

メタン発酵施設を自給エネルギー生産の方法として展開させていく上で求められる技術的課題や成立要件からは,メタン発酵消化液の処理の問題や,高効率で安価な発酵法・メタン精製装置設計・開発が重視されます。本研究テーマでは,「バイオガス」と「メタン発酵消化液」のマイクロ現象の解析とモデル化,「メタン発酵消化液の噴霧乾燥」を進めて,新しい微粒子素材を合成することを目標に,1.コンパクトなバイオガス精製装置設計のモデルの構築,2.噴霧乾燥で得られるメタン発酵消化液粉末(微粉末)の特性の解明を行っています。マイクロスケール機械工学によるバイオマス技術研究に求められる基礎と「バイオマス素材化」及び「エネルギー生産」の実用をつなぐ研究を行っています。